【エフェクチュエーション④】 スノーピーク/『志高く』
こんにちは、白山鳩です! クルッポゥ!
マガジン『能ある鳩はMBA② ビジネススキルで豆鉄砲』での、ビジネススキルにまつわる情報の紹介です。
前回の記事はこちらです。↓↓↓
今回は、エフェクチュエーションを理解するための補助線となる具体例の本として、
キャンプ用品を販売するスノーピークを題材にした『「好きなことだけ!」を仕事にする経営』と、
ソフトバンクの孫正義さんを題材にした『志高く』
を取り上げます。
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スノーピーク╿好きなことだけを仕事にする経営
スノーピークとは新潟県燕三条にあるアウトドア用品の製造販売会社です。
アウトドア・キャンプ用のテントや焚火台などを取り扱っています。
三代目の山井太社長は父の会社に入社したときから、ハイエンド路線へと舵を切ることを想定していました。
従来の売れ筋テントの10倍近い値段の16万8000円のテントを販売したのです。
マーケティング戦略立案のプロセスの否定と「手中の鳥」
山井社長は著書で
「マーケティングを一切行ってこなかった」
と公言しています。
多くの企業は経営戦略を決定する上で市場を調査し、同業他社の取り組みを研究したりしながら、
「競合に対してどう手を打つか」
というマーケティング戦略に力を注いでいる。
しかし、最初のテントで分かるようにスノーピークはこうしたマーケティングを一切行ってこなかったし、これからもそのつもりはない。
他社の製品をベンチマークして研究したところで新しい製品は生まれない以上、スノーピークがそんなことをする必要はないからだ。
マーケットの状況から判断するのではなく、自社のミッション・ステートメントから考えていき、それを具体的な戦略に落とし込む形でビジネスを展開している。
「世の中にない製品」を作るタイプの会社であるため、「今ある製品」には全く興味がない。
山井太(2014)『スノーピーク「好きなことだけ!」を仕事にする経営』(日経BP)
「STPなんてものはない」
というエフェクチュエーションの要諦を感じ取れるのではないでしょうか。
また、
「私は何者か」「私は何を知っているか」
という、エフェクチュエーション5つの原則の1つ「手中の鳥」の要素も感じられますね。
山内社長は時には会社前のキャンプ場にキャンプしてそこから出社するというスタイルをとるほど熱心なキャンプファンでもあります。
自分自身がこの領域で最高のユーザーとなることを突き詰めることで、自社視点がそのまま顧客視点となるのを可能にしているわけですね。
「スノーピークウェイ」とクレイジーキルト
山井太会社を継いだとき、アウトドアブームが収束し、業績ダウンが続いていました。
「先が全く見えない状態」に陥ったそんなとき、山井社長がとった行動は、
ユーザーと社員との共同キャンプを楽しもう
というイベントでした。
「では、ここからどうしようか」と考えたとき、ブームの終焉によって当時、キャンプのイベントが日本中で消えていることに気づいた。
するとある社員が
「自分たちの存在意義はよく分からないが、それでもユーザーの顔を見ると仕事を頑張れる」
と言った。
そこから「では、スノーピークでユーザーとキャンプを楽しもう」となり、イベントの構想が動き始めた。
我々が進む道を照らしてくれたのはユーザーだったのだ。
(中略)
このイベントは私や社員にとって特別なものであり、その場に代表されるようなユーザーとの距離の近さがスノーピークを支えている。
山井太(2014)『スノーピーク「好きなことだけ!」を仕事にする経営』(日経BP)
クレイジーキルトの法則とは、
自分とかかわった顧客をパートナーとし、パートナーと顧客としていく
という、まるで敵がほいほい味方になっていく男塾のようなスタイルでした。
顧客と強烈な関係性を構築して、顧客から直接声を集め、そこから新商品や新しい行動指針のためのインスピレーションを得ていくのは、まさにクレイジーキルトの法則どおりだと言えるでしょう。
志高く 孫正義正伝
孫正義さんは、ここで紹介するまでもない、ソフトバンク創業者の実業者です。
『志高く』は、そんな孫さんの生い立ちからアメリカ留学、ソフトバンクの創業、ブロードバンド事業や携帯電話事業への参入といった孫さんの半生をつづった本です。
意外に慎重な孫正義とアフォーダブルロス
著書の中で、孫さんはまったくもって無謀な人間のように描かれています。
九州の名門・久留米附設高校に入学したかと思いきや、1年で中退し渡米。
米国のセラモンテ高校に編入すると、怒涛の猛勉強で飛び級し、高校卒業検定に合格し、翌年にはホーリー・ネームズ・カレッジに入学。
在学中に、シャープへ自動翻訳機を売り込んで得た資金1億円を元手として、米国でソフトウェア開発会社を設立。
帰国して日本ソフトバンク設立後、慢性肝炎で命の危機に陥るも、社長に復帰。
Yahoo! JAPANを設立してADSL接続サービスのYahoo!BBの提供を開始。
プロ野球球団・福岡ダイエーホークスをダイエーから買収し、福岡ソフトバンクホークスのオーナーへ。
そして、携帯電話事業への参入……。
この並んだ字面を見るだけでも只者ではないということが容易につたわってくるでしょう。
著書内でも、大言壮語とも言える自信と気迫みなぎる決意で、若いときから日本の一流企業を相手取って売込みをかけていく孫さんの姿が描かれています。
さてそんな孫さんですが、意外にも冒険心だけで突き進んできたわけではないことが窺える一幕があります。
孫はソフトバンクの本丸のブランドを安易に使いたくはなかった。
万が一その事業がうまくいかなければ、本丸が崩壊してしまう。
次の事業がやれなくなるからだ。
孫は言う。
「ぼくは無鉄砲にいろんなことを、ある意味でドラスティック(大胆)に、リスキーなことをやっているように見られているかもしれないけれど、どういう状況においても絶対に致命傷を負わないようにと、絶えず心がけてきたんです」
井上篤夫(2015)志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)
「将来利益」を見込んだ計画ではなく、
「許容できる損失の範囲内で何ができるかを考えよ」
というエフェクチュエーションの「許容できる損失」の原則との共通点が見えてきますね。
もっとも、「何が損失と見なすか」のものさしのレベルが孫さんの場合はとんでもないスケールのように感じられますが……。
一回限りの人生だから、人類の歴史に残るようなことをしたい
「手中の鳥」というたとえを出すまでもなく、孫さんは「自分は何者か」について強烈な意識を持っています。
決意はあくまで貫き通すのだ。
考えるだけなら誰でもできる。
それをいっきに実行していく。
一回限りの人生だから、人類の歴史に残るようなことをしたい。
みんなと同じことをしていてはとても歴史に名を残すことはできない。
井上篤夫(2015)志高く 孫正義正伝 新版 (実業之日本社文庫)
前回の記事では、
「MBAの授業っていっつも分析ばっかしてるし、つまんねーなこいつら」(鳩訳)
という経営学者・ミンツバーグの言葉を書きました。
「分析だけしていても想いが無くては、オリジナリティのある戦略は導けない」
という話に触れました。
それもさることながら、孫さんの言葉からは、
「そもそも分析したところで、実行しなければ何の意味もない」
という、小賢しくあれこれ評論している我々がとても小さく見えるようなメッセージが伝わってきます。
みなさんは、他人の理論を援用して評論ばかりしているだけで実行の伴わない生兵法に陥っていませんか?
ビジネススクールに通い、そしてこの孫さんの生き方を知ってからというもの、
「言うは易く行うは難し」
という言葉の重さを鳩は日々かみしめています。
以上、補助線としての2つの本でエフェクチュエーションを見ていきました。
エフェクチュエーションにまつわる記事はここまでです。
次回の記事では、「コッターの組織論」について見ていきます。
お楽しみに。